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東京地方裁判所 昭和30年(タ)42号 判決

主文

原告山村三郎と被告山村康子を離婚する。

右両名間の未成年の長女容子、二女啓子、三男実の親権者を原告と定める。

被告山村康子、同細野千秋は連帯して原告に対し金拾万円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決の第三項、第五項は仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

その趣旨及び方式により真正に成立したと認める甲第一号証(戸籍謄本)原告本人(第一回)被告山村康子本人尋問の結果によると、原告と被告康子とは大正十五年三月二日届出により婚姻し、その間に現在成年の子二人及び未成年の長女容子(昭和十二年九月十六日生)二女啓子(昭和十五年十一月二十九日)三男実(昭和十八年十月二十六日生)が生れたことが認められる。

証人小沢源次郎の証言と、これにより成立を認める甲第三号証及び原告本人尋問(第一、二回)の結果によると、昭和二十六年十一月頃、原告と被告康子との間にかねてから紛争があつたので原告が同被告に生活費を渡さないでいたことを理由として、同被告が王子警察署の人事相談の係員小沢源次郎のところへ調停方を依頼に行つたことがあり、右小沢の仲介の結果原告夫婦間に一応の和解が成立して同月二十六日付の示談書と題する書面(甲第三号)証が作成され同夫婦間に取り交わされたのであるが、同被告はその以前から被告細野と情交関係があり、それを原告が知つたことから右の紛争が起つたものであることが認められる。この認定に反する被告山村康子、同細野千秋の各本人尋問の結果は信用しない。原告本人尋問の結果と被告両名本人尋問の結果の一部によると、原告と被告康子は、被告康子が被告細野とは一切交際しないという約束で右の和解をしたのに、被告康子はその約束を破つて、従前通り被告細野と交際を続けたので、原告は憤激して、昭和二十六年暮頃被告康子の親に同被告を引取るよう交渉し被告康子は翌二十七年一月に同被告の妹が死んだのをきつかけに実家に帰つたこと、ところが被告細野は被告康子の後を追つて富山県の同被告の実家に行き、同被告を連れ出して名古屋に移り、更に京都へ行つて、京都で一年数カ月間両被告は同棲していたこと、被告両名間には、右の示談書を取り交わされて間もなくからこの同棲期間中を通じて、引続き情交関係があつたことが認められ、被告両名の本人尋問の結果中これに反する部分は信用しない。そして原告及び被告両名の本人尋問の結果によると、被告細野は、原告と被告康子は夫婦であつて、昭和二十七年一月までその子女と共に夫婦生活を営んでいたことを知つていたことは明らかであり又原告は、被告両名の情交関係によりその夫婦を侵され、且つこれにより生じた家庭内の不和により、精神的に苦痛を受けたことが認められる。

被告康子の右認定の不貞な行為は民法第七百七十条第一項第一号に該当するから原告の被告康子に対する離婚請求は正当としてこれを認容する。

原告本人尋問の結果によると、原告と被告康子間の未成年の長女容子、二女啓子、三男実は原告に養育されていることが認められこのことと、被告康子の前記行為その他諸般の事情を考慮して民法第八百十九条第二項に則つて原告を同人等の親権者と定める。

被告両名が情交関係を結んで、原告の夫権を侵し、且つ原告の家庭を不和に陥れて原告に精神的苦痛を与えたことは、両被告の原告に対する共同不法行為であるから、被告両名は原告に対し連帯して慰藉料を支払わなくてはならない。その慰藉料額について考えると原告及び被告両名の本人尋問の結果によれば、原告の学歴は小学校卒業で、財産はなく、月収は一万円乃至一万五千円であること、成年に達した二人の子供(いずれも男子)と、前記未成年の子があること、被告康子は財産なく、家政婦として働いているが月収は同被告一人の生活を支えることができる程度であること、被告細野は、寺小屋で学んだ外小学校へ行つたこともなく、財産収入はなく、成年の子(男)から仕送りを受けて生活していることが認められるので、これと被告両名の前記行為の内容その他諸般の事情を考慮して金十万円を相当と認める。そこで原告の被告両名に対する金二十万円の請求中、金十万円の連帯支払を求める部分は正当と認めてこれを認容し、その余は理由ないものとしてこれを棄却する。訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄)

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